「鳴海~、どこだ~」
陽美さんに言われるまで全く気付かなかった。
正直、鳴海がいなくなるのなんて、日常茶飯事だ。
自分勝手に行動するのがアイツの専売特許。
「この近くにはおらんな」
「ケータイには連絡したんか?」
おかしい。鳴海は非常識と自己中の塊だが、人に心配をかけるようなことはしない。
すでに、鳴海がいなくなって、数時間。
イベント会場の準備はすでに終了し、広場に残っているのは、鳴るもんメンバーのみだ。
あ、もちろん、このみちゃんは帰った。
手伝いに来ていた人たちに声をかけて探してもらおうかと陽美さんたちは言ってくれたが、高校生が数時間いないだけで、そんな迷惑はかけられない。
しばらく広場で待ってみたが、鳴るもんたちは明日も仕事がある。オレが帰らなければ、だれも帰らないだろうから、いったん三條さんの鳴響座にオレは移動することにした。
心配してくれる鳴るもんたちに鳴海が見つかれば、すぐ連絡するからと言ってそれぞれの家に帰ってもらった。
陽美さんは、明日は一日休みだから気にするなと言って、鳴響座まで来てくれた。
「連絡はまだつかないのか?」
「はい、ずっと圏外です」
鳴海がいつも持ってるお気に入りのスマホからはお決まりのセリフしか聞こえてこない。
「あいつは、鳴海は、バカでワガママで迷惑大魔神ですけど、人に心配かけるようなことだけはしないヤツなんです」
「あぁ、そうだな。鳴海を見てたらわかるわ。みんな鳴海のことが大好きだろ、それは鳴海が周りのことを大切にしとるからだ」
「オレと鳴海はずっと、本当に子供頃から一緒にいたから、ちょっと今びっくりしてて、……」
どうしていいかわからない混乱の中で、ただ鳴響座で、鳴海からの連絡を待つしかない。 オレを陽美さんはいつもみたいにからかうでもなく、怒るでもなく、ただ静かに見守ってくれている。
「港が、鳴海のことを本当に心配してるのはわかる、だから、信じて待たんか」
「はい、鳴海のことだから、きっと元気にいると思います」
明日一日待ってから、具体的な行動に出ようということになった。つまり警察に……。
「鳴海のばかやろ、なにしてんだ」
「陽美さん、オレの話聞いてくれますか? こんなときに関係のない話ですけど」
陽美さんは静かに笑って頷いてくれた。
「港の気がまぎれるなら」
「オレね、鳴るもんってただ楽しいだけかなって思ってました。はじめ、春に修学旅行で鳴門に来た時は、鳴海に巻き込まれて、陽美さんや鳴るもんに巻き込まれて、わけわかんないけど、バタバタ騒がしいけど、楽しかったなぁって思いました」
ちょっと息をすって吐く。
「夏に阿波おどりに来て、本当に楽しかった。オレが知ってる楽しいことや面白いこととは違ったものがここにはいっぱいありました。鳴るもんのメンバーはいつも元気で輝いてて楽しそうで、憧れました。……でも」
「でも?」
「今日、三度目の鳴門で、鳴るもんのメンバーとたくさん話をして、オレはみんなのこと表面的にしかわかってなかったって思いました。みんなの仕事の大変さとか夢とか理想とか、ほかにもいろいろ。オレみたいな学生と違って、みんな働きながら、この街のことを考えてるんだなって。それってすっごくキツイことだってやっと知りました。 それでも、みんな集まってあんなに楽しそうにしてるのが、羨ましいです」
「お前と鳴海にも絆がちゃんとあるでないか」
「鳴るもんメンバーの絆にはかないませんよ」
「私たちもなんだかんだで、ずいぶん一緒におるけんなぁ」
「ま、お前らみたいにずっと一緒にいるわけちゃうけど、鳴門が好きっていうすっごい重要な共通点があるからな、うちらには……それに」
「それに?」
「お前、さっきから羨ましいとか、かなわないとか言っとるけど、お前も鳴海もその内の一人やろ?」
神手陽美のまっすぐな瞳の力にオレを思わず涙が出そうになった。ぐっとこらえて下をむきながら、絞り出すように答えた。
「はい」
眠れない夜なんて、初めての経験だった。
「鳴海ちゃんと連絡がついたぞ!」
結局、鳴響座の売り場にある売り物の机に集まっていたオレたち。
店のドアを勢いよく入ってきたのは内葉さんだった。
ITに強い彼は、ネットで情報を集めて、そこから鳴海と連絡をとったらしい。
「ミナト~、みんな~」
鳴海は昼過ぎになって、オレたちが脱力するくらい元気に、なぜかトラックに乗ってクリスマスイベント広場に現れた。正直、オレはその姿を見て昨日のオレの眠れない夜を返してほしいと心底思った。
トラックから飛び降りて、駆け寄ってくる鳴海にオレは強い口調で怒鳴りつけた。
「ばか!!! なにやってんだ」
「ふえ?」
「どれだけみんなが心配したと思ってんだ!!」
オレが本気で怒ってるのを感じたのか、ビクンと震える鳴海
実をいうとこんな風に鳴海を怒鳴ったのは17年間生きてきて初めてだった。
「……ごめんなさい」
鳴海のまわりに集まってきた鳴るもんたちの表情から自分の行動がなにを巻き起こしたのかわかったようで、陽美さんたちに頭をさげて謝る。
その姿を見ても、オレの怒りはおさまらない。
「お前! なに考えてるんだ!!」
「だって……、だって」
「だってじゃない!」
「ミナト、ちゃんと鳴海の言葉もきいてやれ」
「三條さん……」
「鳴海、お前どこ行ってんだ?」
鳴海は零れ落ちそうな涙をぬぐって、話し始めた。
「みんなが喜ぶかなって、クリスマスだから、ここに大きなツリーがあったら、もっとみんなが笑顔になるかなって思ったんだもん」
そう、鳴海が乗ってきたトラックの荷台にはかなりの大きさのモミの木が乗っていた。 鳴海はモミの木を探しに、イベント会場の準備を見に来ていた農家の御夫婦と話が盛り上がり、その方の所有の山奥まで分け入って、見事にモミの木を頂いてきたのだ。
「心配かけた鳴海はもちろん悪いけど、港もそんなに頭ごなしに怒鳴らない、ちゃんと話して仲直りしな」
陽美さんが苦笑いを浮かべて、まだべそをかいてる鳴海の頭をなでる。
「鳴海を思う気持ちがあるんなら、伝えなきゃ鳴海もわからないだからな」
そう言って鳴るもんメンバーを連れてオレたちから離れた。
昨日の夜、考えたことや心に浮かんだことが次々に出てきて言葉になかなかできない。
「心配したんだからな」
向かい合った鳴海を見つめながら、告げる。良く見れば、鳴海はいたる所に汚れやキズがある。きっと山に入ったときに無理をしたんだろう。
「生まれたときからずっと一緒なんだ、いきなりいなくなるな」
「ごめんなさい」
「ずっとオレの隣にいろ」
「……うん」
うつむき加減だった鳴海が顔をあげる。
「オレもそばでいてやるから」
「ミナト」
また鳴海の目に涙がたまっていく。
「うん、ミナト、ありがとう・・・」
鳴海がゲットしてきたモミの木を広場の中央にたてて、飾り付けをする。当然イベント開始には間に合わないから、イベントに来てくれたお客さんたちにもかざりつけをしてもらうという趣向にして、少しずつツリーを完成させていく。
「鳴海ちゃん! ツリーありがとう!!」
「どういたしまして、このみちゃん!!」
このみちゃんには鳴海の失踪は話していない。小学生に余計な心配をさせるわけにはいかなかったからね。
「さすが、鳴るもんやね、見て、鳴海ちゃんのおかげで、みんなが笑顔になってるよ」
12月24日、クリスマス・イブ
「点灯~~」
陽美さんの掛け声で、暗闇の中にLEDの青色の波が生まれる。
歓声が響きわたり、オレたちもその美しい光の渦に目を奪われた。
昨日作り上げたステージでは街の有志によるライブが始まる。
まずは子供たちのクリスマスソングからだ。
盛り上がりも最高潮の中、ステージには我らが三條伸也!!
オレも鳴海もステージ前を陣取って拍手で迎える。
「聞いてくれ、今日はオレの歌じゃなくて、オレの気持ちを」
いつもならギターをかき鳴らし、三條ワールド全開でロックな世界を作り出すのに今日は三條さんは緊張した様子で、マイクを持って言葉を紡いでいる。
「えみこさぁぁぁん、俺と結婚してください!!」
湧き上がる会場
三條さんの真剣な視線の先には……
えみこ!? 井上えみこ!! 先生!!!!
「えええ??? うそだろ、井上先生????」
「じゃあ、夏に三條さんといたのはやっぱり井上先生だったの~??」
三條さんのプロポーズに井上先生が口を開く。会場中が固唾をのんで注目する。
「はい、よろしくお願いします」
井上先生は本当に幸せそうに、いつも私たちにむけてくれる優しい笑顔とはまた違った笑顔で、大きく頷いた。
もちろん、その後は鳴りやまない拍手と歓声。
オレと鳴海は、あまりに突然の出来事で言葉がでない。
でも、なぜか、すぐに理解できた。そうだ、いつだって生きることは出会いなんだから。
井上先生と並んで現れた三條さんは照れながら幸せそうに笑っている。
「お前ら見てたら、どうしても今日言いたくなってな」
え?
なぜ、オレと鳴海??
まさか、俺は鳴海に告白したことになってるのか??
思い出す――――――“ずっとそばにいろよ”
あれは……違う、いや、違うはないか??
とにかく、オレ……、みんながいる前でなんちゅー恥ずかしいことを!!
「夏休みに見られたこと、秘密にしててごめんなさいね、なんか恥ずかしくて」
「井上先生、本当に三條さんとなんか結婚しちゃうの?」
「ふふ、近くにある幸せを逃がしちゃダメでしょう?」
ちらりとオレを見て井上先生は笑った。
「じゃあ、また三学期に会いましょうね。あ、2人は高校生らしく仲良くするのよ」
「やだ、先生。私たちは家族だから」
鳴海が俺の腕をとってぐいっと引き寄せる
やっぱりそういうことになっているのか……
ステージでは、最後にイベントの中心となった鳴るもんメンバーたちが一言ずつ挨拶をしている。
「よ~し!! 来年も、この街をもっと盛り上げていくぞ~鳴るもん最高!!!」
陽美さん
「鳴るもんメンバーは常時募集しています」
内葉さん
「もっともっと、鳴門! 行けるとこまで行きましょう!!」
水城さん
「みんなで街をにぎやかにしていきましょう」
塚谷さん
「街の人も、外の人も、みんなが心休まる場所に」
マリさん
「鳴門の良さをアピール! アピール!!」
道元さん
「みんな、鳴門好き~??」
三條さん
「よっしゃ~!! ハッピークリスマス!! 鳴るもん!!カモーン!」
「あたしたちも、このきれいな場所を作ったんだよね」
「あぁ、オレたちが作った場所で、みんなが笑ってくれているよ」
オレ達は自然と手をつないだ。
手袋越しだけど、暖かい。
「また来よう。」
「あぁ、大切な場所だからな」
「あぁ~、やっぱりあの占いサイトは凄すぎだよ~」
「は?」
「だって、ホラ!」
◆◆◆ 彼のタイプはこんな人 ◆◆◆
みんなのために頑張りましょう
そんなあなたの姿に彼はドキドキ!!
そしてそのままあなたたちはラブラブゾーンに突入!?
「鳴海……お前まさかこの占いを信じて……」
「ミナト、ちょっとぐらいドキっとしてくれるかなって思ってたけど、まさかホントになるなんて、もうヤバい! マジ神サイトだよ~!!!!」
あぁなんだろ、鳴海と出会って何度も繰り返し感じて来たこの虚無感
そうだよ、こいつは妙見山鳴海だ。撫養川港、悪魔に魂を売るところだったぞ。
「アホかーーーーーーーーー」
オレの叫びがイブの夜に響き渡る
「ほぇ? なんでまた怒るの~~?????」
オレ達の旅はまだまだ続く
未来のことなんてわからないけど
この街に来て
この街を好きになって
この街で笑顔に出会えた……
オレ達にとってかけがえのない記憶。
いつか、また
この場所で。
~ 完 ~