ストーリー

目次
撫養川くんの予告編(注:声が出ます)
「修学旅行で行くところをみんなで決めてください」

担任の井上先生(担当は国語だ)は、そう言うと後は生徒だけで話し合ってねと、教室の端に移動した。
普段なら進行役を務めるクラス委員の代わりにすたすたと黒板の前に現れたのは妙見山 鳴海(みょうけんざん なるみ)だった。

オイオイ、何をする気だ? 鳴海は俺の幼馴染でクラスメイトの腐れ縁。ただ、少し、いや、かなり変わったヤツである。

鳴海が無言のままで、でかでかと黒板に書いたのは・・・



そして、くるりとふり返り、言い放った。

「修学旅行の行き先は、鳴門がいいと思います!」


さらに鳴海の声が響く。

「あたしは、絶対鳴門に行きたいの!!」


「え? え? 鳴門??」

鳴門ってどこ?? なにがあるの?? なんで??
聞き慣れない地名に戸惑う生徒たちを前に、平然と鳴海は言った。

「理由? そんなの、鳴門が良いところだからに決まってるじゃない!!」

すでに鳴海の頭の中では修学旅行のしおりは完成している様だ。
俺たちは完璧に置き去りだが……。


幼稚園から大学までの一貫教育を謳う珠玉学園(しゅぎょくがくえん)高等学校で、いまさらアイツを知らない奴なんていない。
言い出したら聞かない性格の持ち主。普段は、ぽよよ~んとしているのに、変なこだわりを見せるときは意味不明な熱意と行動力で自分の意見を必ず押し通す。そのハタ迷惑な行動とめんどくさい性格に勝つことなど無理だと全員が知っている。

それでも、高校生活の一大イベント修学旅行だ。鳴門という超マイナー候補地に不満の声があがるのは至極当然だと思う。

なんて、他人事のように鳴海とクラスメイトたちの攻防を眺めているのが……俺、撫養川 港(むやがわ みなと)。さっきも言ったが、妙見山鳴海の幼馴染であり、一番の被害者である。鳴海の巻き起こすトラブルに巻き込まれた数なら誰に負けない。だから、俺は、あわてず、騒がず、関わらず、でこのホームルームを乗り切ろうと思っていた。まぁ、正直、修学旅行なんてどこに行っても楽しいだろうし。めんどくさいことに巻き込まれなければそれでいい。



あ、ヤバい、目があった。


「詳しいことは撫養川君から説明しま~す」

は? なぜ俺が??
喋らず動かなければ、十分カワイイ妙見山がニッコリと俺に微笑みかけた。
そういえば、先週勝手に俺の部屋に乱入して旅行雑誌を、読んでおいてねと置いていったな。
あれはこのためか!!

なにも知らない他校の奴らはこの笑顔に騙されるが、この笑顔こそ何より恐ろしいモノだと俺は身をもって知っている。去年のクリスマスの悪夢は一生忘れられない……


ゴメン、みんな!! ここでフォローしなければ、俺の平和な高校生活が脅かされるんだ


「先生、俺も鳴門に行ってみたいです。鳴門は、四国の玄関口になり、――――――」

しぶしぶ立ち上がって鳴門観光の説明をし始めた俺に鳴海は満足げに頷いている。
クラスメイトたちは、鳴海の共犯者となった俺に若干の非難と憐れみの視線を送ってくる。




「ね、ね、鳴門って楽しそうでしょ? 反対の人いる? いないよね!?」



珠玉学園高校 裏規則 第3条 鳴海の言うことは絶対!


はい、決定しました。
妙見山鳴海がそう決めた時から、俺達にはどうすることもできないんだ。
アイツを止めるより、どう鳴門を楽しむかを考えるほうがいいとクラスの意見もまとまったみたいだ。

「最高の思い出をつくりに、行こうよ鳴門へ!!」

こうして、妙見山鳴海の独断と偏見によって、修学旅行は未知の国・鳴門に決定したのだった。